【労務】人財を失わない職場へ!両立支援のすゝめ

「がんになってしまったので、治療のため今までと同じ働き方ができなくなってしまいました…。」という社員からの突然の申出に適切な対応ができますか?
65歳以上の社員や持病や疾病により定期的な通院をしながら働く社員の方はいらっしゃいませんか?

少子高齢化による高齢者の就労の増加や労働人口の減少、医療技術の進歩等を背景に、何かしらの病気を抱えながら働く人が年々増加していくことが見込まれる中で、「病気の治療」と「働く」ということが二者択一とならないような両立支援制度や職場環境の整備を推進するため、2026年4月1日より労働施策総合推進法(略称)にて「治療と仕事の両立支援」が努力義務化されます。

今回は、事業主(特に中小企業)が両立支援制度を充実させる重要性や意義並びにメリットについてみていきたいと思います。

目次

1.なぜ、今、治療と仕事の両立支援制度が必要なのか

両立支援とは、事業主が社員の仕事と私生活の両立を支援することで、社員が妊娠、出産、子育て、介護、病気の治療等さまざまなライフイベントによる離職を防ぐことができるよう、職場環境を整備する取組(制度の整備・拡充・見直しや残業の削減・休暇取得促進に向けた業務の見直し等)のことをいいます。

平成4年から育児介護休業法が施行されていることや、昨年本法に大幅改訂があったこと等から育児と介護については中小企業においても、両立支援制度の充実が図られ、制度の浸透や利用への理解が進んできています。

両立支援の3つの分野(育児、介護、病気の治療)の一つである「治療と仕事の両立支援」については、厚生労働省において平成28年に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインhttps://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/download/」が策定されております。
こちらによって事業場における取組の周知啓発が図られているものの、中小企業を中心に取組状況は低調な状況であり、社内の制度整備や理解の浸透が出遅れている状況があります(図1)。

(図1)治療を必要とする疾患を抱える労働者の離職理由

〈出所〉厚生労働省佐賀労働局「治療と仕事の両立支援をめぐる現状とこれまでの取り組み」PDF内
https://jsite.mhlw.go.jp/saga-roudoukyoku/content/contents/001636818.pdf

今回の労働施策総合推進法の改正による「治療と仕事の両立支援の努力義務化」に伴って公開された指針によると、両立支援の対象となる者は雇用形態に関わらず全労働者となっています。

また、対象とする疾病(負傷を含む)は、国際疾病分類に掲げられている疾病(がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病、メンタルヘルス不調 等)であって、医師の診断により増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ就業の継続に配慮が必要なものとされています。

例えば、生涯のうちに2人に1人は疾患するといわれているがんを例にとってみると、日本人の就労世代では約7人に1人ががんに罹患すると推計されています。
また、国立がん研究センターの推計では、年間約98万人が新たにがんと診断されており、このうち24.1%が就労世代の20~64歳である(図2)ことが示されています。

(図2) 性別・年齢階級別がん罹患者数(診断年:2021年)

〈出所〉厚生労働省「治療と就業の両立支援 がんに関する留意事項」PDF内
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001662011.pdf

また、生存率の向上等に伴いがんを抱えながら仕事を続けている人も多く、令和4年国民生活基礎調査に基づく推計によれば、がんの治療のため仕事を持ちながら通院している人は約49.9万人いるとされています(図3)。

(図3) 仕事を持ちながらがんで通院している者

〈出所〉厚生労働省「治療と就業の両立支援 がんに関する留意事項」PDF内
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001662011.pdf

上記はがん疾患のみの推移にはなりますが、医療技術の進歩等により何かしらの疾病に罹患した場合でも、すぐに離職しなければならないという状況は必ずしも当てはまらなくなってきており、治療をしながら仕事をする人は年々増加傾向であることがみてとれます。

また、少子高齢化による高齢者の就労の増加等を背景に、慢性疾患やがん等何かしらの疾病により通院しながら働く人の割合が増えてきていることから、今後も一層病気の治療をしながら就労する人の増加が見込まれます。

労働人口の減少が進む中、病気によって社員が望まない退職をすることを防ぎつつ長く活躍してもらうことは、一人一人を戦力としなければならない中小企業においては特に、事業の持続的成長に不可欠です。よって、中小企業にとってこそ治療を受けながら働き続けることを希望する人を活用することは重要だと考えます。

2.他法律と治療と仕事の両立支援

4月1日から努力義務化される「治療と仕事の両立支援」ですが、大前提として、事業主には社員に対する「安全配慮義務」がすでに他の法律にて課されています。

具体的には、労働契約法第5条にて「労働者の安全への配慮」、労働安全衛生法第66条にて、「健康診断の実施及び医師の意見を勘案し、必要があると認める場合には就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)」を義務づけています。

上記より、事業主には社員が業務に従事することによって疾病を発症したり、既往の再発や現病状が悪化したりすることを防止するための措置を講じることが求められています。
これらは、「雇用の安定と保護」や「労働者の健康と安全と保護」を目的としており、社員が安全に働ける環境を確保することの義務を明文化したものです。

ですから、すでに義務化されているこれらの法律によって、療養しながら仕事をする社員に対して、その健康状態に配慮せず過度な負担を強いることは法律に違反にあたる可能性がありますが、これに今回「労働者の多様な働き方の実現」を目的とした法改正を加えることによって、病気を抱えながら働く人が働きやすくなるよう、厚生労働大臣が支援指針を定めて、事業主に対して必要な措置をとるように示した格好です。

3.環境整備の進め方と助成金

では、実際に事業主(特に中小企業)が治療と仕事の両立支援を進めていくためにはどうすればよいのでしょうか。厚生労働省が策定した「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、以下の4つのステップが示されています。

①事業者による基本方針等の表明と労働者への周知

まずは、事業主が「我が社は両立支援を行なっています!」ということを表明することからスタートします。
表明するには、就業規則や社内規程に「治療と仕事の両立」に関する制度があるという裏付けが必要になりますので、仕組み作りや制度設計、運用の促進につながるメリットがあります。

同時に、制度の内容を掲示、説明事業主内ポータル等を用いて社員に周知することも大切で、表明と周知はワンセットで行います。

②研修等による両立支援に関する意識啓発

職場での理解促進や浸透を進めるためには、事業主や管理職が「治療と仕事の両立支援」について基本的な理解を持っている必要があります。

管理職を中心に同僚への啓発や研修を行い、両立支援に対する配慮が自然にできる雰囲気を社内全体に広げ、社員全体の意識を高めていきます。また、理解や意識の定着化を図るにあたっては、繰り返し、定期的に行うこともポイントになってきます。

③相談窓口等の明確化

「治療と仕事の両立支援」について、社員が相談できる窓口(人事、総務、上司等)を明確にして社員に周知します。あわせて、相談内容や健康情報は本人の同意のもとで取り扱い、適切に管理し、保護しなければならず、プライバシーを守ることも重要です。

④両立支援に関する制度・体制等の整備

自社の実情にあわせた、実際に運用可能な両立支援制度を整備していきます。具体的には、休暇制度、勤務制度の整備として、
A. 時間単位での年休取得
B. 傷病休暇、病気休暇
C. 有給の時効分を活用した温存休暇の創設
D. 時差出勤制度
E.  短時間勤務制度
F. 在宅ワーク制度
G. 試し出勤制度
等があげられますが、業種や会社ごとに実情にあわせて導入できるもの、できないもの、その他に検討しうる制度があると思われます。

また、制度を作った際には、その利用に関して手続きや対応手順等についてのルール作りも必要になります。

 

しかしながら、中小企業にとって就業規則を見直して制度を整えることは大変になりますので、まずは、「本人の声を聞いて、柔軟に働けるように工夫する」ことから始めてみましょう。
そういった事業主の対応が、会社全体の安心感や意識の定着につながっていき、その次のステップとなる制度の見直しや構築をすすめることが可能になってきます。

「仕事と治療の両立支援制度」の具体的な導入事例については厚生労働省のサイト(https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/case/)でご参照いただけますので、導入にあたり参考にしてみていただいてもよいかと思います。

自社内で制度設計が難しい場合は、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)を活用できる場合もあります。弊社でも、両立支援制度を含めた就業規則や各種規定のご相談を承ることが可能ですので、制度設計をご検討の際は弊社の活用も検討してみてください。

また、「治療と仕事の両立支援」をすすめる事業主(中小企業)は、以下のような助成金を申請できる場合もありますので、両立支援制度導入と制度利用のタイミングにあわせて、うまく活用できるとよいかと思います。

団体経由産業保健活動推進助成金(独立行政法人労働者健康安全機構)
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1251/Default.aspx

東京都難病・がん患者就業支援奨励金(TOKYOはたらくネット)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/shogai/josei/nan_gan/

障害のある方や難病の方を雇い入れた場合などの助成金(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/intro-joseikin.html

助成金申請についても、弊社にて申請代行を承っておりますので、両立支援制度を含めた就業規則の作成や見直しをご依頼いただいた際には、弊社にて活用できる助成金の検討もさせていただきます。

4.最後に

今回取り上げた法改正「治療と仕事の両立支援」は、あくまでも努力義務であって、事業主に制度設計や環境整備を強制するものでなく、罰則等もありません。

しかしながら、少子高齢化、人口減、医療の発達を背景とした現状に鑑みると、貴重な人材の離職を防ぐために、実際に対象者が出る前から、病気になっても生き生きと働き続けることのできる職場環境の整備は今後ますます重要になります。

また、事業主にとっても、疾病を抱えていたり、治療をしながらも働くことを希望する人が活躍しやすい職場環境を整備することは、貴重な人材の離職防止に繋がっていきます。
一人一人を戦力としなければならない中小企業においては特に、両立支援への取組は、企業の持続的成長に関わってくる経営課題の一つと考えてもよいでしょう。

法律のギリギリを攻めるのではなく、他社に先駆けて自社の実態に合った両立支援体制を構築することで、「社員の健康を守り大切にする、両立支援制度が充実した長く安心して働ける会社というイメージを打ち出すことで、同業他社との差別化を図ってみませんか?

弊社では、労務管理や整備に取組む中小企業を多方面からサポートすることが可能となっております。
「3. 環境整備の進め方と助成金」内にてご紹介しました両立支援制度に対応した就業規則や規程の作成及び見直し、それに関連した助成金の申請代行、その他労務(給与計算や社会保険の手続き等)に関することは何でもご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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